生きることにおける理論と実践

日常生活が下手すぎる人間が、いろんなコンテンツを摂取しながら、生きることについて考えては実践し、実践しては考えるブログ。迷いながらも少しずつ進めたらいいね。

「ディズニー」について語り合う定期イベントの開催決定 ところで「ディズニー」って?【wezzyからの転載】

初出:wezzy(2024年3月31日にサイト閉鎖)

 

 こんにちは。レロこと中村香住と申します。社会学の研究者で、普段は、第三波フェミニズムの観点からメイドカフェでの女性の労働経験についての研究などをしています。

 そんな私が、この度、wezzyでディズニーに関するオンラインイベントを定期的にホストすることになりました(転載時に追記:wezzyのサイト閉鎖に伴い、オンラインイベントも現在のところ中断しています。どこか別のプラットフォームで再開できるとよいのですが…)。「なぜこの人がディズニーに関するイベントを?」と疑問に思われる方もいると思いますので、私とディズニーとの関わりを少し書いておきたいと思います。

 私は、「ディズニー好きなんですか?」と聞かれると、いくつかの点でいつも答えに窮します。一つは、そこで言う「ディズニー」とは何なのかという点です。関係する企業だけでも膨大な数に上りますし、映画、パーク、グッズなど媒体のジャンルもいろいろあれば、映画だけをとってもDisney、PIXARStar Wars、MARVELなどたくさんのブランドがいまや「ディズニー」傘下に入っています。

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 例えば、私はパークはパリ以外全部行っているものの、映画はある程度押さえつつもすべてを見られているわけではありません。MARVELに至っては現在まさに勉強中の身であり、この記事を執筆している2021年12月現在、マーベル・シネマティック・ユニバースの作品だけをとってみても1/4もまだ見られていません。そんな、記事執筆時点でMARVELを絶賛「履修中」の私が、「ディズニー」が好きと言ってしまってよいのか、いつも悩むのです(転載時に追記:2024年3月現在、ディズニーパークはパリを含むすべてのパークを訪れ、マーベル・シネマティック・ユニバースの作品はフェーズ3まで見終えました)。

 もう一つはさらに根源的な点ですが、「好き」とは何かという点です。私にとって「ディズニー」は、幼い頃から自分の傍に常に存在していて、常に探求し続けてきたものであり、簡単に「好き」か「嫌い」かを問えるものではありません。もちろん、特定のコンテンツに関してはかなり明確に「好き」と言えるものもあるかもしれません。しかし、それをもってして「ディズニー」全体を「好き」だと断言してしまうのはあまりにも雑です。そして実際、探求し続けてきたからこその、「嫌い」な、もしくは「よくない」と思っている側面もたくさんあります。文句を言いたいことも数え切れないほどあります。

 それでも私は、外から見れば「ディズニーファン」だということになると思います。そもそも、「ディズニーが好きか」というごくシンプルな質問に対して上記のような面倒くさい悩み方をする時点で、ある程度以上の「ファン」であるということになるのでしょう。

 私自身も、「好き」かどうかはともかくとして、どうしようもなく「オタク」であるという認識はあります。小学生の頃にはウォルト・ディズニーの伝記を読み漁り、中学生からは東京ディズニーランド/シーの2パーク共通年間パスポートを保持して月一回以上のペースで舞浜に通い、当時のショーやパレードの音楽が収録されたCDをほぼすべて購入し、パークの街並みやキューラインの中に貼ってある英字広告や英字新聞を読み漁ることで英語の表現を学び、東京ディズニーシーのフォートレス・エクスプロレーションの壁に描かれている歴史絵巻を読み解きながら世界史について考察し、大人になってからは東京ディズニーシーのテディ・ルーズヴェルト・ラウンジで顔馴染みのバーテンダーさんにカクテルを作ってもらい、世界各地のディズニーパーク& リゾートを訪れ、PIXARの短編プロジェクトSparkShortsの作品をすべて見て、2019年にはカリフォルニアのアナハイムコンベンションセンターで行われる究極のディズニーファンイベント「D23 Expo」に参加し、現在でも東京ディズニーランドホテルのレストラン「カンナ」に月一ペースで通っている私は、かなりパーク&リゾートに偏り気味ではあるものの、何かしらの意味でディズニーの「オタク」ではあると思います。

 ちなみに、私がパーク&リゾートの中で特に関心があるのは、ディズニーパークがそのテーマ性・ストーリー・コンセプトをどのようにして現実空間の中に具現化しているかという点です。

 これはディズニーの用語で言えば「イマジニアリング(Imagineering)」に当たる部分です。イマジニアリングとは、Imagination(想像力)とEngineering(工学)を合わせた造語で、ディズニーの創造者集団であるイマジニアたちがパーク&リゾートを創るすべての過程(デザインから設計、使用する技術の開発、実際の建築まで)を指します。私はパークの要素の中でも特に、植栽、音楽、広告やプロップス(小道具)などが好きなのですが、それはストーリーテリングを重視したイマジニアリングの際に、そうしたディテールこそが重要になってくるからです。

 例えば、東京ディズニーシーの、南イタリアをモチーフにしたテーマポート「メディテレーニアンハーバー」にある、「ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ」というレストランのテラス席には藤棚があり、例年4月末〜5月頭には藤の花がきれいに咲きます。実際にフィレンツェにも咲くと言われている藤の花を見上げながら、ピザやパスタなどのイタリア料理を食べるのは、東京ディズニーシーの四季を通じても最高のシチュエーションの一つであると同時に、テーマポートのテーマ性を噛み締められる営みでもあります。

 また、このレストランには、この地域でワインを造り続けてきたザンビーニ家という家系に生まれたザンビーニ三兄弟が、20世紀初頭にワイナリーを改装して開いたイタリアンレストランであるという設定(バックグラウンドストーリー)があり、近くにはワイン醸造用のブドウが植えられています。

 他にもイタリアンレストランらしく、オリーブの木も見ることができます。このように、テーマやバックグラウンドストーリーに沿った空間設計をするために細かな部分を含めてさまざまな要素を総動員している点が、私がディズニーパーク&リゾートでもっとも興味深いと感じている、「好き」な点です(こうした点に関しては、以前文章を書きましたので、ご興味ある方はご覧ください。レロ「異国のミニチュアとしての東京ディズニーシー」『Rhetorica #03』 http://rhetorica.jp/review/rero01)。

 これから始まるwezzyでのディズニーに関するオンラインイベントでは、毎回さまざまなテーマを設定し、そのテーマに関連するゲストの方をお呼びして、二人でいろいろとお話をしていきたいと思います。場合によっては、私はほぼインタビュアーに徹して、ゲストの方から専門的なお話を伺う回も出てくるかもしれません。

 ゲストの方も、ディズニーに関連する著作がある方やディズニーに関する研究をなさっている方から、ディズニーをファンの視点から長年見ている方、さらに場合によってはディズニーについてはそこまで詳しくないもののテーマについて専門的な視点を持っている方まで、さまざまな方をお呼びできればと考えています。

 いずれにせよ、「ディズニー」に関して単に肯定したり、 逆に一方的に否定して切り捨ててしまったりするのではなく、「ディズニー」の深い森の中にぐっと分け行って、その中で起きている複雑な事象をひとつひとつ解きほぐしつつ、さまざまに葛藤しながら、毎回のテーマに関する「ディズニー」の輪郭をぼんやりとでも描き出すことができればと考えています。ご期待ください。